十全大補湯について
「家庭の中医学」の中の中医学処方解説によると、十全大補湯は:
◆ 人参・黄耆・白朮・茯苓・甘草は、全身の機能を高め代謝を促進し、消化吸収を強め、元気をつけ疲労感を除き抵抗力を増します(補気健肺)。
◆ たんばく合成、造血、免疫能増強に働き、白朮・茯苓は、組織中や消化管内の余剰の水分を血中に引き込んで利尿によって除きます。
◆ 地黄・当帰・芍薬は、豊富な栄養物を含み、全身を栄養、滋潤し、神経機能や内分泌機能を正常化します(補血)。
◆ 当帰・川芎は、血管拡張により循環を改善し、栄養物の分配、配給を強めます(活血)。
◆ 桂枝は、血管拡張により内臓や末梢の循環を強めて体をあたため(温中散寒)、唾液、胃液の分泌を高めて消化吸収を補助します。
◆ 黄耆・当帰は、肉芽形成を促進します。
となっている。補中益気湯との使い分けの中に、「皮膚の乾燥」があるかないかというのがあるが、乾燥がある場合は、十全大補湯を使うことが多いようだ。おそらくこれは積極的な乾燥肌の治療というのではなく、血を造る力を高めることで、全身、ひいては肌にも栄養分が流れるようになり、自然に乾燥が治まってくるということだと思う。使われている生薬だが、ちょっと面白いことが分かったので、ツムラのもの、本草のもの、TCM Zoneのものを比較してみる。
生薬 | 読み方 | 英/中 | TCM | 本草 | ツムラ |
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当帰 | トウキ | Angelica sinensis(Dang gui) | 2.57 | 3.5 | 3.0 |
川きゅう | センキュウ | Cnidium Rhizome(Chuan xiong) | 2.57 | 3.0 | 3.0 |
芍薬 | シャクヤク | Peoney Root(Shao yao) | 2.57 | 3.0 | 3.0 |
地黄 | ジオウ | Rehmannia Root(shu di huang) | 2.57 | 3.5 | 3.0 |
蒼朮か白朮 | ソウジュツかビャクジュツ | Atractylodes Rhizome(Bai zhu) | 2.75 | 3.5 | 3.0 |
茯苓 | ブクリョウ | Holen(Fu ling) | 2.57 | 3.5 | 3.0 |
人参 | ニンジン | Ginseng(Ren shen) | 2.57 | 2.5 | 3.0 |
桂皮 | ケイヒ | Cinnamon Bark(Gui pi) | 2.57 | 3.0 | 3.0 |
黄耆 | オウギ | Astragalus Root(Huang qi) | 2.57 | 2.5 | 3.0 |
甘草 | カンゾウ | Honey-Fried Licorice(Zhi Gan cao) | 2.57 | 1.0 | 1.5 |
生姜 | ショウキョウ | Ginger(Sheng jujube) | 2.57 | - | - |
大棗 | タイソウ | Jujube(Da zao) | 1.71 | - | - |
TCM Zoneの方剤には大棗と生姜が入っている。私が見た限りの日本語情報では、他社のもので十全大補湯の基本処方以外にこれらの生薬が入っているものは見つからなかった。もう少し調べてみると、「中医学講座:植物生薬(大棗:タイソウ=なつめ)」という記事に:
臨床応用としては、胃腸虚弱や気(エネルギー)不足による倦怠感、食欲不振、軟便、などの症状に用いられます。大棗が配合された主な中成薬に「勝湿順粒」がありますが、胃腸障害の症状に用いられる「帰牌湯」や「十全大補湯」なども、煎じて飲む場合には胃腸の気を補う大棗と解毒効果がある生姜を加えます。生姜と併用すると、食欲増進効果や薬効を増強する効果が期待できる他、発汗作用や解毒作用、体の陰陽のバランスを調整する調和営衛の効果があります。と載っているのを見つけた。ということなら、十全大補湯に大棗と生姜が入ったTCM Zoneの漢方、すごく考えられているような気がする。私の体に合ってくれるといいが。これを飲んでいる他の患者さんの様子はどうなのだろう。
家庭の中医学: http://www.sm-sun.com/family/
中医学講座:植物生薬(大棗:タイソウ=なつめ):
http://sammy-p.at.webry.info/200909/article_40.html